WFPチャリティー エッセイコンテスト2022

入賞作品発表

WFP賞(最優秀作品)

ももちゃんのお煎餅
北海道
鈴木 洋子さん

 家計の為早々に働き始めた私は、下の娘のももを年少クラスの三歳から幼稚園に通わせていました。園の送迎バスは地域ごとにタイムスケジュールが組まれており、一番遅い子だと家に着くのが幼稚園終了から二時間近く経過してしまう為、お弁当のない日はバスに乗るまでの間に軽いおやつが出されるようでした。二枚入のお煎餅等のお菓子で、これは同じ幼稚園に通っていた上の娘からも楽しみな出来事として聞いた事がありました。その日はいつもおっとりしているももが家に着くなりもどかしい様子で通園リュックをおろし、前ポケットから何かを取り出して見せました。それは開け口の部分をセロハンテープできっちりと止めた一枚のお煎餅でした。食べ残した子が持って帰れる様に先生がフタをしてくれた様です。「お腹いっぱいになっちゃったの?」と私が尋ねると、ももは首を横に振り「おうちでみんなで食べるの」と答えました。「お姉ちゃんとお母さんに分けようと思って残してくれたの?」と上の娘が聞くと、こくりとももが頷きました。「優しいね!お母さん、ももちゃん優しいね!」上の娘がぴょんぴょん飛び跳ねながら言うと、ももはうれしそうな少し誇らしげな笑顔を見せました。その後キレイに洗った自らの小さな手でお煎餅を割り、私と上の娘の手のひらに乗せてくれました。その時一瞬考えた様子で一番小さな欠片を自分に残すのを見て「お母さんお腹あんまり減ってないからね、こっちと交換しよう」と私にくれた分をももに手渡しました。三人でまるくなって座り、甘じょっぱいお煎餅の欠片をカリカリと食べているとなんだか私達はリスみたいだなぁと思いました。一番小さな子リスが外の世界で初めて自分一人で見つけた木の実。みんな喜んでくれるかなとワクワクしながら食べずに持って帰って来てくれた木の実。お母さんリスは二十年たった今もあの日を思い出すと胸がポカポカしてくるのでした。

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    湯川 れい子さん(国連WFP協会顧問 音楽評論家・作詞家)
     3歳だったももちゃんが、幼稚園から貰ったお煎餅を、大切に持って帰って来た日の想い出話です。
     小さなももちゃんの手が割ってくれた甘じょっぱいお煎餅を、お姉ちゃんとお母さんとももちゃんが、3匹の子リスのようにカリカリと、丸くなって食べている可愛らしい姿が、絵のように目に浮かんできます。
     分け合って食べることの素晴らしさ。それはどんなご馳走よりも、心と身体と人生の栄養になることでしょう。読んでいる私も、幸せで胸がポカポカになりました。
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