WFPチャリティー エッセイコンテスト2019

入賞作品発表

審査員特別賞(中学生・高校生部門)

忘れられない味
福岡県 久留米信愛高等学校 2年
 牛島 優(うしじま ゆう)さん

 私の大好物は母が作ったハンバーグである。小さいころから食べている母のハンバーグは、私の元気の源だ。なので我が家では、大切な日や勝負事の前日はトンカツではなくハンバーグだった。
 数年前、母はとある病気を発症した。それは数時間前、自分が何をしていたのか忘れてしまう恐ろしい病気だった。自分の来た道が分からなくなり、迷子になることも多々あった。母は数ヶ月入院し、その後自宅療養することになった。記憶力が低下した母は同じ言葉を何度もくり返すようになった。私はそれにいらだち、ついつい当たってしまうことが何度もあった。しかし、母は言い返すことなく、ごめんね。とばかり言っていた。
 ある日、母は私に「晩ご飯何食べたい?」と聞いてきた。私は「久しぶりにハンバーグが食べたい。」と答えた。母はたまに料理のレシピを忘れることがあったので、どうせ作り方も覚えていないだろうと思い、私はあまり期待していなかった。ハンバーグが出来上がると、母はテーブルの上においた。私はお箸を手にとり、おそるおそる口にした。すると自然と涙が出てきた。昔食べた懐かしいあの味だった。私は「おいしい。」と言って母の顔を見た。母は安心した顔で「ありがとう。」と言った。
 私は後悔した。どうしてあんなキツイ態度をとってしまったのか。とても自分を責めたかった。私は母に謝ろう思ったが、素直になれず、ごめんねの一言も言えなかった。
 私は料理をするようになった。当時素直に言えなかった感謝の気持ちを込めて、美味しい物を作ろうと決めた。後悔する前に親孝行しようと思ったのだ。
 今では料理をすることが大好きになり、大好きな母のハンバーグも作れるようになった。

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  • 【選者のコメント】
    広瀬 アリスさん(女優)
    辛く苦しくて冷たく当たってしまったこともあったけれど、昔の楽しかった思い出、母親への想いを呼び起こしたそのハンバーグは、二人にとって紛れもなく「私のとっておきごはん」であると思いました。とっておきごはんを通じて二人はずっと繋がっているんだと、とても心温まりました。これからもずっとお二人の心の支えとなりますように。
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