WFPチャリティー エッセイコンテスト2019

入賞作品発表

18歳以上部門賞

日本へ留学する前に食べた親と最後のご飯
大阪府 東大阪大学短期大学部 2年
 蘇 鑫(そ きん)さん

 私にとって一番印象に残っているのは日本へ留学する前のごはんです。忘れられないお母さんの顔、そして忘れられないあの味。
 私は約3年前から日本で勉強しています。日本に出発する前、今までに無かったくらい多くの料理を作ってくれました。その中で一番印象に残った料理は、卵とトマトの炒め物でした。お母さんはその料理を作っている時に私を呼んで、「ちょっと手伝ってもらってもいい?」と言いました。私とお母さんは無言で料理を作りました。作り終わったとき、お母さんがやっと口を開きました。「さっきの料理の作り方見た?覚えたよね」その一瞬、涙が溢れてしまいました。見た目は普通の卵とトマトの炒め物だけど、その中には、私に対するお母さんの愛情が込められていたのです。
 日本には一人で留学するため、ご飯も自分で作らないといけません。お母さんが息子のこれからの日本での生活を心配して料理を教えてくれたのでした。たとえ息子が困ったとしても、距離が遠いため、何があってもすぐに手伝うこともできないのです。
 食事中、ずっとその卵とトマトの炒め物を食べました。何の味でしょう。少し酸っぱい、少し甘い、少し苦い、その時の私の気持ちのような、今思い出すと、涙が出てきそうです。
 日本に来て3年目になり、ようやくお金が貯められるようになって、様々な料理を食べることができるようになりました。しかし、私が大好きな料理は、やはり卵とトマトの炒め物です。作る時は毎回、あの日のお母さんの顔が頭の中に浮かんでいます。まるで、お母さんが隣にいるかのように。

  • 【選者のコメント】
    三國 清三さん(国連WFP協会顧問 オテル・ドゥ・ミクニ オーナーシェフ)
    僕も外国生活が長く、よく夜に刺身、みそ汁を一人で作って日本を思い出していました。彼も心細い日本での一人暮らし。そして母親から直接教わった、卵とトマトの料理。卵とトマトは、世界中どこの国でも手に入る食材で、お母さんはそれを知っていてこの食材を選んだと思います。味には基本味があって、「甘味、酸味、塩味、苦味、うま味」の五味があります。それをもクリアーしていて、お母さんの深い愛情を感じます。彼も母親を身近に感じることができ、とても素晴らしい母心に感動しました。
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