WFPチャリティー エッセイコンテスト2019

入賞作品発表

WFP賞(最優秀作品)

心の栄養
埼玉県 川口 ひろみ さん

 育児真っ只中にフルタイム勤務復帰した私は積み重なる疲労の中、毎日の夕食作りが大きな負担となっていた。職業は高校教師。初めての担任業務、それもいきなり高三受験生を担当し、戸惑いの毎日を送っていた。仕事柄、定時に帰れることはない。生徒に何か問題が起これば帰宅予定時間は大幅に遅れる。
 あの日も、そうだった。急な生徒指導のために、予定していた帰宅時間を三時間も過ぎた。ハンドルを握り、家路を急ぐ私の脳裏に五才の一人息子の顔がよぎる。お腹を空かせているだろうか。もしかしたら、怒っているかも。いずれにしても面倒くさい。こっちは疲れているのに。申し訳なく思う気持ちがなかったわけではないが、このときの私には「面倒くさい」それしか思えなかった。
 車中で予約を済ませておいたほか弁を受け取り、急いで家にとびこむ。「そう君、ゴメンネ。」口先だけの「ゴメン」を叫びながらリビングへかけ上がると、そこには笑顔の息子。
「ママ、遅くまでおつかれさま。おなか空いたでしょ。そうくん、ごはんつくっといたよ。たべて。」とびきりの笑顔で私を迎える息子の手には、おままごとセットで作った夕飯が。メニューは、秋刀魚に目玉焼き、ブロッコリーととうもろこし。パンケーキ、それから、いちごとぶどうもあったっけ。
 もちろん、味も匂いもないけれど、疲れきった私の心にたっぷりの栄養と優しさを与えてくれたあの夕食。涙でにじんだあの夕食こそが、一生忘れることのできない私のとっておきごはん。

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  • 【選者のコメント】
    湯川 れい子さん(国連WFP協会顧問 音楽評論家・作詞家)
     育児で最も忙しい時に、高三受験生のフルタイム担任教師。どんなに大変なことだろうと、読んでいるだけで頭がクラクラする。
     家にはお腹を空かせて待っている5才の息子さん。
    正直「面倒くさい」と言う気持ちは、私も経験者だから、痛いほど良く解る。
     「ゴメンネ!」と、駆け込んだ母を迎えてくれたのは、オママゴト道具のオモチャで作ってくれた息子のご飯と満面の笑顔だった。
     泣きました。まさに最高のごはんです。
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