WFPチャリティーエッセイコンテスト2018

入賞作品発表

小学生部門賞

菜園の宝物
神奈川県 湘南白百合学園小学校 5年
 柴田 杏樹(しばた あんじゅ)さん

 私にはお気に入りの写真があります。その写真にはモロヘイヤで口の周りを緑にしながら離乳食を食べている私がいて、その後ろで曽祖母、祖母、母が笑って写っています。
 曽祖母は家庭菜園で野菜を育て、いつも取りたての野菜で栄養満点の料理を作ってくれました。曽祖母は食べ頃の野菜を見ると、
「お天道様に感謝、感謝。」
と言って収穫していました。野菜は不ぞろいですが、色鮮やかでピカピカと光っていて、小さな家庭菜園が野菜基地のようでした。
 その曽祖母が突然、三年前に認知症になり、一日中、寝て過ごすことが多くなりました。私の顔も忘れてしまい、私はその現実を受け入れられませんでした。その頃から祖母が代わりに野菜を育て料理をしてくれました。祖母が作る料理も曽祖母の味つけに似ていて、体に染み入ってきて優しい気持ちになり、私のことをわからなくなってしまっても曽祖母とつながっているのだと思うと、安心したような少しほっとした気持ちになりました。曽祖母が私によく作ってくれたモロヘイヤスープを祖母に教えてもらいながら作り、曽祖母に食べてもらいました。曽祖母は、
「まあ、お天道様の味だねえ。」
とおいしそうに平らげてくれました。私は曽祖母が全てを忘れてしまっていると思っていたので、「お天道様の味」と聞いた時は、つながりを見つけられたことがうれしくて、「お天道様に感謝、感謝。」でした。
 それから数日後、野菜の収穫の最盛期を迎える頃、曽祖母は他界しました。
 私にとって夏とは、心が宿った料理をたん能する季節です。「あら、あんちゃん遊びに来てくれたの。おいしいお野菜食べようね。」とシワだらけの笑顔で迎えてくれた曽祖母。その小さく丸い背中や優しくゆっくりとした声を思い出す家庭菜園は、今年も彩り豊かな野菜に囲まれて、曽祖母と過ごした大切な時間を映し出してくれています。

  • 【選者のコメント】
    本田 亮さん(国連WFP協会理事 クリエイティブディレクター・環境漫画家)
     小学生とは思えない言葉の選び方や文章力に驚かされた。
     「野菜基地」「お天道様の味」「心が宿った料理」など1つ1つの言葉がほんのりと温かかった。
    4世代が共に暮らす家庭と受け継がれていくモロヘイヤのスープ。
     最後は曽祖母の死という形で終わるけれど、決して暗くなることなくむしろ光溢れる温かい家族の話を聞いたようで読後感がとても清々しい作文でした。
     食べ物に心を込めることの大切さも改めて気づかせてくれたと思います。
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