小学生部門賞　「分けられなかったお弁当」

神奈川県　湘南白百合学園小学校　5年　兼八 美汐（かねはち みゆ）さん

　これは、私がおばあちゃんから何回も聞いた話である。おばあちゃんが中学生の時、おばあちゃんのお弁当はいつも麦飯、周りのお友達の白米のお弁当がうらやましかったそうだ。お昼休みはいつも新聞に包まれた麦飯弁当をかくしながら憂うつな気分で食べていたらしい。
　ところが、ある時、クラスメイトの一人がお弁当の時間になるといつもいないことに気付いた。そのクラスメイトは、お父さんの仕事が失敗し、お弁当も持ってこれないほど生活に困っていたのでその時間は屋上で時間をつぶしていたのだ。その事を知り、自分が麦飯弁当を隠しながら食べていたことを恥ずかしく思ったおばあちゃんは、友達に麦飯弁当を分けようと考えたそうだ。しかし、言葉をかける勇気がなく、間も無くその友達は学校をやめてしまった。卒業して、五十年以上経ってもおばあちゃんはその事を忘れられず、何もできなかった事を後悔していると言っていた。
　その話を聞いて、私はおばあちゃんがいつも食事の時に、「ありがたいね。」、「おいしいね。」と言いながら残さず食べていた理由が分かったような気がした。
　そのおばあちゃんが、腸の病気で6月に亡くなってしまった。あんなに食べることが大好きで、食べ物を大切にしていたおばあちゃんが最後は点滴だけで何も食べられなくなってしまった。私はそんなおばあちゃんを見ているのがとても悲しかった。そして、健康でなければ食べ物を大切にすることもできないのだなと思った。
　今はもうおばあちゃんはいないけれど、おばあちゃんの食べ物への感謝の気持ちと健康でいることの大切さをしっかりと教えてもらうことができた。
　そんなことを考えながら食事をしていたら、いつものように、おばあちゃんの「ありがたいね。」、「おいしいね。」の声がした。