WFPエッセイコンテスト2015 入賞作品

中学生・高校生部門賞 シャルル・ド・ゴール空港の豪華な昼食
東京都 巣鴨高等学校 1年 小野村 龍(おのむら りょう)さん
 今年の夏、僕はケンブリッジ大学の短期留学プログラムに参加した。あっという間の二週間が過ぎ、思い出やらお土産やらで膨らんだザックを背負っての帰りの出来事である。
 安い航空券のため、フランスの空港で三時間の待ち時間が生じた。広いだけで驚くほど殺風景な空港のソファーで、この時間をどうやって過ごそうか思案していた。お土産は十分買ったし、五千円分ほど残っているポンドをここのレストランで使い切ってしまおうか。「最後の食事は豪勢にステーキでも食べてやるか」などと考えていると、向かいのソファーに大きな荷物の大家族が座った。お父さんとお母さんと小学生から中学生くらいまでの子どもが四人。空港の中でも目立つほど薄汚れた服装だった。移民か引っ越しか。家族旅行とは思えない。しゃべっている言葉は何語かも分からないが、子どもたちは元気だ。
 つい見とれていたら、一番小さい小学一年生くらいの男の子と目が合ってしまった。男の子は父親に小声で何か話して、リュックの中から何やら出して僕のところにやって来た。
 何かを僕に渡そうとする。手にはお世辞にも衛生的とは言えない丸いパンがひとつ・・・食べろと言っているようだ。
 ひと口齧ると、少々埃っぽくて、饐えたような匂いがする。男の子はじっと僕を見ている。僕はもうひと口頬張った。固くてパサパサで喉につまりそうだ。心配そうな男の子に向かって、親指を立てて「Good!」のサインで、男の子は嬉しそうににっこり笑った。
 僕を見て、腹を減らした可哀そうな東洋人と思ったに違いない。しかも一人ぼっちの。そして父親の許可を得て、大事なパンを分けてくれたのだろう。
 固い固いパンを噛んでいると、不思議な甘さが口に広がった。胸がつまって鼻の奥が痛くなった。旅の最後にこの上なく豪華な食事ができた。僕は、ひと足先にゲートに入って行く小さな友人を何度も手を振って見送った。