WFPエッセイコンテスト2013 入賞作品

審査員特別賞(18歳以上部門) 「としくんの給食」
大阪府 一宮 あゆみ(いちのみや あゆみ)さん
 準備をしながら、今日の給食について、としくんに話していく。
「メインは、カレーライスやわ。あっ、今、みやちゃんがイヤな顔した。」
としくんが、みやちゃんの方に顔を向ける。
「あんまり辛くないみやちゃんの好きな味やったらいいね。」
としくんは、大きなため息をつく。
「キャベツサラダは、きれいな緑。デザートは、モモ缶かな?」
そこで、看護師さんが突っ込む。
「先生、おしい!リンゴの甘煮や。」
としくんが、私をにらむ。
「ごめん、間違い。リンゴの甘煮、ちょっと味見。甘酸っぱくてツルンと入るわ。」
としくんの給食は、すべてペースト状にして配膳される。全部を混ぜて、カロリーを見て、本日の量を決めていく。そして、胃につないだチューブへ注射器で入れていく。私はとしくんの舌に成り代わり、懸命に味を言葉に置き換える。香りや色をとしくんに感じさせる。

 私の勤める支援学校では、胃ろう注入、鼻腔注入による栄養摂取の児童生徒が増えている。親にとって、子の食べる楽しみを奪われることはつらいが、子の健康維持を優先し、苦渋の決断をするしかない。せめて食事の楽しさを味わってほしくて、私はおしゃべりをしたり、音楽をかけたりして、雰囲気作りに励む。時に呼吸が苦しくなるとしくんは、生きるということの素晴らしさもしんどさも知っている。
「世界には、貧しかったり、災害にあったりして、食べる物がない所があるねん。それで死んでいく子どもが居るねんで。」
としくんが、私をじっと見つめる。大きな目から、次から次へと大量の涙があふれ、私の目からも涙があふれた。