WFPエッセイコンテスト2012 入賞作品

18歳以上部門賞 「赤札団地」
栃木県 赤羽 智子(あかば ともこ)さん
我が家の冷蔵庫。母と私の戦利品が入っている。いわゆる、赤札商品。消費・賞味期限間際の物だ。いつからだろう、この光景。そう、それは20年前。姉の住むブラジルのリオ・デ・ジャネイロへ両親と3人で行った時からだ。姉の住む地区は海岸沿いの高級アパートメント。だが、姉の勤務する日本人学校は山肌にギッシリとへばりつくファベーラとよばれる貧困地区。そこで見たものは、ゴミ袋の山また山。どれだけゴミを出すの?と、思っていた。いや、違うのだ。出すのではなく、持ち込むのである。街から拾ってくるのだ。そして開封し、食べられるもの、使えるものを選び出しているのだ。正直、初めは怖かった。実際、危険な場所。だが、その光景は自分たちの生活の中身を見ているようだった。一口だけ食べて捨ててしまった弁当やパン。まだ食べられる野菜や果物。飲みかけのドリンク。形だけ崩れたケーキ。期限切れのお菓子。突然、ファベーラの子供たちが何やら奪い合って騒ぎ始めた。姉が言った。『とけて形が無いチョコレート。獲りあっているんだよ。』リオ。オリンピックが開催される観光地。街の中心地とは別世界だった。それ以来だろうか。我が家の冷蔵庫が赤札団地となったのは。恥ずかしいと思ったことは一度もない。惨めだと思ったことなど決してない。戦利品と考えているのは、ある目的の為。ファベーラへの募金の為。ひと吹きで消えそうな活動かもしれないが。

20年前の出来事から、自然と出来上がった赤札団地。今でも我が家の赤札団地は、地球の反対側へ続いている。