WFPチャリティー エッセイコンテスト2017 入賞作品

審査員特別賞(18歳以上部門) 誓いのおにぎり
大阪府 矢鳴 蘭々海(やなる ららみー)さん
「おにぎり欲しい人は順番に並びやー」
 マリコ先生の声が響いた途端、六年一組の教室で生徒たちの笑顔が集まり始めた。あれから二十年以上経つが、あのときのワクワク感はいまだに忘れられない。私の給食時間の楽しい思い出となっている。
 マリコ先生が給食で余った白ご飯から生徒のためにおにぎりを作り始めたのは、阪神・淡路大震災での私の体験がきっかけだった。神戸の我が家は半壊となり一時間近く歩いてやっとの思いで避難所にたどり着くと、おにぎりの配布が始まってすぐに長蛇の列ができた。それはまるでテレビのニュースで見た難民の食糧配給のような光景だった。食べ物を得るために並ぶのはこんなにもひもじくて苦痛だったのかと、同じような立場になって初めて思い知った。
 ようやく入手できたおにぎりにかぶりついた瞬間、白米のもっちりした歯ざわりが口いっぱいに広がり、塩気が舌を通じて全身に染み渡った。咀嚼して飲み込んで胃に食べ物が溜まっていく感覚は、こんなにも満ち足りた気持ちにさせてくれるのかと思わず目を閉じてうなった。「ああ、思いっきり物が食べれるって幸せやなあ」と生きていることに改めて感謝した大事な瞬間だった。
 小学校の授業再開後、この話を聞いてマリコ先生は私にこう言った。「時が経てば震災で苦しかったことはみんな少しずつ忘れていく。でもね、食べ物に感謝する気持ちを学んだことだけは、絶対忘れたらあかんよ。亡くなった友達のためにもね」
 先生の握るおにぎりは本当に美味しくて、友達と笑いあいながら一緒に沢山食べた。兄弟を亡くして小食だった子もおにぎりを食べるようになり、暗かった教室の雰囲気は段々明るくなっていった。
 誰かとお腹いっぱい食べて美味しさを分かち合うことは、何倍もの幸せで胃と心を満たしてくれる。この教訓を、震災を忘れないと、おにぎりを食べながら胸の内で誓った。
 今もおにぎりを握るたび、私はその手に感謝と平和への思いを込める。